悪臭の花


 花は良い匂いのするものばかりでなく、人間にとって悪臭に思えるものもいろいろあります。例えば、ヒサカキ(Eurya japonica)の花は死臭がするというほど良くない臭いですし、クリやシイの仲間の花の生臭い臭いも好きな人は少ないと思います。ちなみに、食虫植物であるウツボカズラの花の臭いもクリの花の臭いに似ています。春の草花のクリサンセマム・パルドサム・ノースポール(Leucanthemum paludosum cv. 'North Pole')は白くてマーガレット形の美しい花を咲かせますが、その臭いは強烈なチーズの臭いで、顔をしかめるほどです。スイセンも種類によって花の臭いが違い、例えば、スイートネスという品種(Narcissu cv. 'Sweetness')は、ニホンズイセンとは全く違う香りで、私の感覚では悪臭に近いものです。ヨーロッパの人はこれを良い香りと感じて、スイートネスという名前を付けたのでしょうか。ここでは、私が栽培した中で遭遇した3大臭い花を紹介したいと思います。関連する事項が、「実を結ぶための花の戦略」にもあります。下の写真は、左から、ヒサカキ、クリサンセマム・パルドサム・ノースポール、スイセン・スイートネスで、私にとっては良くない匂いの花です。
ヒサカキ(Eurya japonica) クリサンセマム・パルドサム・ノースポール(Leucanthemum paludosum cv. 'North Pole') スイセン・スイートネス(Narcissu cv. 'Sweetness')
 まず、トップにあげられるのが、地中海のバルカン半島原産のドラクンクルス(Dracunculus vulgaris、旧名:Arum Dracunculus)、サトイモ科です。コンニャク玉のような大きな球根(塊茎)を持つ球根植物です。早春に出芽し、春に花を咲かせます。えび茶色で細長い巨大なミズバショウのような肉穂花序を伸ばします。下の写真の一緒に写っている子供の顔の大きさと比較して、かなり大きな花であることはわかると思います。とても変わっていて、仏炎苞にはビロードの風合いがあり、肉穂は光沢があって、見るだけならばなかなかの観賞価値があります。しかし、その臭いはとてつもない悪臭で、周囲半径2m位に近寄ると風向きにも寄りますが、顔をしかめるほど強くなります。臭いの種類は、水産動物の腐った臭い、つまり魚の腐ったような腐臭です。沢山のハエが集まってきて飛び回ります。栽培は、寒さに強く、比較的簡単です。日本では夏の高温多湿で早く茎葉が枯れないように注意しさえすれば、植えっぱなしで、悪臭のある花を毎年咲かせてくれます。
ドラクンクルス(Dracunculus vulgaris) ドラクンクルス(Dracunculus vulgaris) ドラクンクルス(Dracunculus vulgaris)
 次は、サイカク(スタペリア)(Stapelia asterias)です。アフリカ原産のガガイモ科の多肉植物です。星型の5弁の直径7〜12cm程度の花を春から秋までぽつぽつと咲かせます。花弁の内側は長い毛が密生していて、獣の皮膚のようです。臭いは、半径50cm位の範囲で、結構強くします。臭いの種類は哺乳動物の肉の腐った臭いです。開花すると、どこからともなくハエがやってきて、幼虫や卵を産み落とします。右下の写真の花の中央部にいくつか写っています。臭いと、動物の傷口のような形状でハエを誘う花です。おしべとめいべは、花の中央の黒い部分の中にあり、ハエの幼虫がそれを食い破って受粉するそうです。花はハエが育つほどの餌にはならず、しかも、数日で萎れて落ちてしまうので、ハエの幼虫を待つ運命は死のみです。この花は、ハエを一方的に利用しているのです。栽培は、寒さに弱く最低10℃以上の温度が保たなければならないことを除けば、容易です。春から秋は、日によく当てて、水と肥料をたっぷりやると、どんどん大きく育ちます。
サイカク(Stapelia asterias) サイカク(Stapelia asterias) サイカク(Stapelia asterias)
 下の写真は、中南米原産のウマノスズグサ科のオオパイプカズラ(Aristolochia grandiflora)です。尻尾が長く伸びた、奇妙な色彩の幅15〜20cm、長さ30cm以上の大きな花を咲かせます。色彩も白とえび茶色の複雑な網目模様になっていて、中央に空いた穴の方向へ誘うようです。臭いは、干物のスルメが変質したような、臭い靴下のような匂いです。花の後ろには、穴につながる袋状の部屋があります。その中におしべとめしべがあります。穴から袋の入り口には、ねずみ返しのような構造があり、もし虫が入ると抜け出しにくいような構造です。臭いに誘われたハエなどの昆虫が袋の中に入り込み、出ようと必死にもがき暴れまわることで受粉しているのではないかと思います。熱帯のつる植物なのですが、暑く乾燥する気候を嫌うようです。このため、温室の中で通風が悪くむれると、たちまちアカダニが葉について弱ります。春から夏はやや日陰の屋外で、水をたっぷりやって風通し良く育てるのが栽培のコツです。臭いを除けば、蕾から開花までの形態の変化に高い観賞価値のある植物です。
オオパイプカズラ(Aristolochia grandiflora) オオパイプカズラ(Aristolochia grandiflora) オオパイプカズラ(Aristolochia grandiflora)

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