空中で生きる植物


ハネフクベ(Alsomitra Macrocarpa, Zanonia macrocarpa)ハネフクベ(Alsomitra Macrocarpa, Zanonia macrocarpa)  左右の不思議な形の種子は、熱帯アジアの高木によじ登って育つつる草である、ウリ科のハネフクベ(アルソミトラAlsomitra Macrocarpa、現在では、Zanonia macrocarpaが正式学名)です。ツタのような吸盤を持った根を出して高木に付着します。数十m位の高さに達すると、茎を垂れ下がらせて花を咲かせ、20cm位のボール状の果実をつけます。果実は、見かけが熟したヒョウタンやカンピョウのような風合いであるので、ハネフクベという和名になったのでしょう。果実の先端に穴が空き、薄い膜のついた幅15cm位の種子が中に数百個入っています。この種子は、中央に薄く平べったい2cm位の種子本体があり、その両側に大変薄いけれども、ある程度曲がりにくい膜状の翼がついています。種子からこぼれ落ちた種子は、風に乗って滑空し、まっすぐ飛ぶと100m位は離れたところに着地することができるそうです。10m程度の高さから種子を飛ばしてみた動画(形式mpeg2、サイズ8,959kB、約32秒)を見ると、風に乗って、グライダーのように滑空することがわかります。ビデオの種子は、羽の一部が切れてしまっているので、旋回して飛び、うまい具合にビデオの視野に収まっています。
 この種子の形、アニメ作品「風の谷のナウシカ」で主人公が乗るメーヴェの形にそっくりですね。滑空性能の良いこの種子の形をモデルにして、1910年頃にエトリッヒ父子が飛行機を開発しています。ライト兄弟の飛行機とは別の系統の飛行機は、ハネフクベ形の主翼に尾翼がつけられ、鳩のような外見になったので、エトリッヒタウベと呼ばれたそうです。宮崎駿氏も、このような話を参考にして、あのアニメの飛行装置のモデルを考えたのでしょうか。一時は軍用偵察機としてつかわれた、このタウベ型飛行機ですが、現在ではクラッシック飛行機の模型として市販されている程度で、使われていないのが残念です。工学技術に取り入れられた、自然が作り出した植物の巧みな造形の例として有名です。下の写真は、京都府立植物園での栽培状況と実生苗の蔓です。苗にはツタのような吸盤の付いた二又に分かれたひげがあることがわかります。
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ナガバビカクシダ(Platycerium bifurcatum ssp. willinckii)ナガバビカクシダ(Platycerium bifurcatum ssp. willinckii)  「植物は大地に根を張って生きる」ということは常識で、いろいろな教訓にも使われたりしています。しかし、一生を空中という不安定な環境で過ごす植物もいます。写真は、私の家の前の柱にくくりつけてある植物です。道をとおる人は、「このダルマみたいな植物は、どこに根があるのですか」とたずねたりします。この植物がただ柱にぶら下がっているだけと聞くと、ちょっとびっくりします。そう、この植物はぶら下がる場所だけ貸してやると、あとは自分ですべてやるのです。
 これは、ナガバビカクシダ(Platycerium bifurcatum ssp. willinckii)と呼ばれるジャワ原産のウラボシ科の羊歯の仲間です。細長く伸びている葉がまるで鹿の角(ビカク)に似ているので、こういう名前がつきました。この植物の特徴は二種類の葉を持っていることです。自分自身を覆っている幅の広い葉は、ネストリーフ(栄養葉)と呼ばれていて、鳥の巣のようなすり鉢状の形状を作り、その中に落ち葉や自分の葉の腐ったものを蓄え、それに雨水を吸収保持させて、成育するために使用します。雨水をうまく利用し、肥料を貯えているので、空中で生活できるのです。もう一つの、鹿の角のような葉は、フォリッジリーフ(生殖葉)と呼ばれていて、次の写真のように、裏にはびっしり胞子がつきます。

ナガバビカクシダ(Platycerium bifurcatum ssp. willinckii)ナガバビカクシダ(Platycerium bifurcatum ssp. willinckii)  小さいときには、鉢植えで育てられますが、大きくなるに連れて、鉢を覆い隠して、上の写真のような形になっていくので、柱にくくりつけるか、上から吊るすしかなくなるわけです。これを見ていると、スイフトの描いた、空中浮遊都市「ラピュタ」を想像してしまうのは、私だけでしょうか。

サルオガセモドキ(Tillandsia usneoides)サルオガセモドキ(Tillandsia usneoides)  エアープランツと呼ばれる植物はたくさんあります。これは、そのひとつのチランドシア属に属するパイナップル科の植物です。上から吊るしているだけで、この植物には根はありません。形がサルオガセに似ているので、サルオガセモドキ(Tillandsia usneoides)または、スペインゴケと呼ばれていますが、れっきとした種子植物で、右の写真のようなエメラルドグリーンの5mm位の花を咲かせます。目立ちませんが、午前中はとても良い、爽やかな香水のような匂いを放ちます。植物体の表面には毛が生えているため、銀色に輝いて見えます。この植物は、一生、電線や木の枝にぷら下がって空中で暮らします。養分は雨水から取りいれるだけで、寄生植物ではありません。強い風が吹くと、風で一部が引き千切られて、どこかに引っかかると、また、そこで生長を始めます。
 この植物は、乾燥に大変強く、銀色に見えるのは、水分で湿ると変形する蓋のような器官で、トリコームと呼ばれます。これは、湿ると開いて、毛細管現象で水分を効率よく体内に吸収し、乾燥すると蓋の役目をして乾燥を防ぎます結露や霧を効率良く吸収するこの仕組みは、乾燥地帯に生える工夫です。チランドシアの仲間は、乾燥地帯に生えるほど銀色で毛深く、湿った地帯に生えるものほど緑色でつるつるです。トリコームの発達の程度によって、水をどれくらい与えたら良いのかの目安になります。

サルオガセモドキ(Tillandsia usneoides)サルオガセモドキ(Tillandsia usneoides)  個体によって変化があり、銀色が目立たないもの、大ぶりなもの、針金のように細いものなどが見られます。栽培は簡単で、日に良く当てて、一日に一回水をざーっとかけるだけです。冬は、保温してやります。

チランドシア・イオナンタ(Tillandsia ionanta) チランドシア・アエラントゥス(Tillandsia aeranthos) チランドシア・ドゥラティ(Tillandsia duratii) チランドシア・キセログラフィカ(Tillandsia xerographica)
チランドシア・キアネア(Tillandsia cyanea) チランドシア・キアネア(Tillandsia cyanea)  最近、ブームになっている「エアープランツ」は、このチランドシアの仲間です。上左側は、イオナンタ(Tillandsia ionanta)という一般的な種類ですみれ色の美しい花を咲かせます。これも、ランの生えているバスケットにただ突っ込んであるだけで、根はありません。少し珍しいものには、その隣の写真のアエラントゥス(Tillandsia aeranthos)があり、「空中のカーネーション」と呼ばれるほど、美しい花を咲かせたり、またその隣の写真のドゥラティ(Tillandsia duratii)という、まるでタコが手をくねらせているような姿のものや、上の右端の写真のキセログラフィカ(Tillandsia xerographica)という絶滅危惧種で、緑色の花を咲かせる雄大な種類などがあります。
 右横の2枚の写真は、昔から鉢物として生産されているキアネア(Tillandsia cyanea)という種類です。ピンク色のうちわ状の花序が出て、紫色の美しい花を咲かせます。これには、立派な根があって、水や肥料を与えないと、よく育ちません。同じ仲間でも、育っている場所の環境によってずいぶんと形や性質が違うのです。

フクロカズラ(Dischidia pectenoides)フクロカズラ・花(Dischidia pectenoides) 左の風変わりな植物は、フィリピンに原産する、フクロカズラ(Dischidia pectenoides、ガガイモ科)です。岩や木の枝に着生して育っています。この植物の面白いところは、普通の葉のほかに、直径5cm程度の腎臓形の袋を作ることです。袋の中には、なんと、根が伸びています。袋の中にたまった水分や、アリなどが巣として使って運び込んだ有機物などを吸収しているようです。このように乾燥などに耐えるために袋を利用します。右のように派手な色の赤い花をつけ、触覚状の果実を良くつけます。他のガガイモ科の植物と同じように、羽毛の付いた種子が風を利用して飛散します。

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